はじめに:『ポストMythos時代』をセキュリティ運用課題として捉える

 Anthropic社のClaude Mythosに代表される高度なAIモデルの登場によって、脆弱性の発見や攻撃手法の検討といった攻撃準備の高速化や攻撃規模の大規模化が懸念されています。Claude Mythosをはじめとした高度なAIモデルはその性能を向上させ続けており、それらを悪用したサイバー攻撃に対してセキュリティ運用についても見直しが必要な時代に突入したと考えられます。本記事ではこのような局面をF5社が用いた表現にならい『ポストMythos時代』と呼称します。
 『ポストMythos時代』において、組織のセキュリティ運用に求められるのは、単なるセキュリティ製品の導入だけではありません。AIで高速化・大規模化するサイバー攻撃に対し、大量のアラートの中から真の脅威に『気づくSOC』と、インシデント発生時に迅速に『動くCSIRT』を両輪として連携させる運用が重要になります。
 本記事では、『ポストMythos時代』のAIによってサイバー攻撃がどのように変化するのかを整理するとともに、SOC/CSIRTサービスを提供する立場から、これからのセキュリティ運用に求められるSOC/CSIRTの役割とそれらを活用した実効的なサイバー攻撃対策について解説します。

 

1. AIによってサイバー攻撃の何が変わるのか

1.1. AI悪用型サイバー攻撃によって攻撃の『速度』と『規模』が変わる

 『ポストMythos時代』におけるAI悪用型サイバー攻撃で大きく変わるのは、攻撃の目的や基本的な手法そのものよりも、攻撃準備・検証を進める『速度』と、攻撃の『規模』です。
 まず『速度』の観点では、AIによって脆弱性情報の分析やエクスプロイト開発の一部が効率化されたため、脆弱性の探索から悪用可能性の検証までの期間を短縮することが可能になってきています。
 続いて『規模』の観点では、AIの活用により、標的調査や攻撃手順の生成を自動化・並列化できるため、これまでより多数の組織や利用者に対して、大規模かつ反復的な攻撃が展開できるようになっています。
 一例としてGoogle Threat Intelligence Group(GTIG)が2026年5月11日に発表したブログ記事の中で、生成AIを悪用した脆弱性の発見とエクスプロイトコードの生成を実施する脅威アクターや自律型攻撃を行うAI搭載マルウェアを報告しており、実際にAIによってサイバー攻撃の『速度』、『規模』が変化してきていることがわかります。
 

1.2. 脆弱性発見件数の増加

 近年発見される脆弱性の件数が増加しておりますが、これはAIの脆弱性発見能力の向上が一因であると考えられます。
 図1はMITRE社が四半期ごとに公開しているCVE Program Reportをもとに作成した四半期別のCVE登録件数のグラフです。2026年第一四半期(Q1)のCVE登録件数は15,176件となっており、2025 Q4と比較して約18.6%増加しています。また2026 Q2のCVE Program Reportは本記事作成時点(2026年7月末)では公開されていませんが、Claude Mythos Preview公開以降の2026年4月~6月のCVE公開件数は20,701件(AhnLab社集計)となっており2026 Q1と比較して約36.4%の増加となっています。
 

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図1 第一四半期CVE登録件数

 Project Glasswingに参加していたPalo Alto Networks社においても、Claude Mythos Preview公開以降、公式アドバイザリーに記載されているCVEが採番された脆弱性の件数は増加しております。2026年5月のCVE付き脆弱性の件数は24件となっており2026年4月の3件と比較して8倍の件数の脆弱性が公表されています。
 
 以上のことから『ポストMythos時代』においてはAIの性能向上と相関する形で今後も発見される脆弱性の件数は増加していき、脆弱性発見の『速度』がより速くなっていくことが予想されます。
 

1.3. エクスプロイト開発も効率化

 Anthropic社による公開済みのセキュリティパッチを対象としたN-day脆弱性の評価では、Claude Mythos Previewがエクスプロイトコードを1時間未満で作成し、約12時間で8件のエクスプロイトコードを作成したと報告されています。すべての脆弱性について同様の結果が得られるわけではありませんが、脆弱性の公表から実際に動作するエクスプロイトコードの作成、検証までを短時間で実行できる可能性を示す結果であると考えられます。
 『ポストMythos時代』において特に注意が必要なのが、修正プログラムの公開後に発生するN-day攻撃です。ベンダーがパッチを公開すると、防御側は影響範囲の確認、検証、適用計画の策定を進めますが、攻撃側も公開されたパッチを解析して、修正された箇所から脆弱性の原因を推測できます。AIによってこの解析とエクスプロイト開発が効率化されれば、パッチ公開から攻撃開始までの『速度』が速くなり、未適用のシステムが攻撃対象となる可能性が高まります。
 

1.4. AIによる攻撃の自動化と大規模化

 AIの活用は、サイバー攻撃の一部を補助する段階から、攻撃工程全体を継続的に動かす段階へ進みつつあります。攻撃者はAIを、公開情報の収集、標的の選定、フィッシング文面や偽サイトの作成、攻撃結果の分析、次の試行内容の調整など、サイバー攻撃のライフサイクル全体に組み込み始めています。
 Microsoft社は、攻撃者がAIを単発のツールとして利用するのではなく、既存の攻撃手順へ組み込み、サイバー活動の速度、規模、継続性を高めていると指摘しています。従来は人が順番に行っていた調査、コンテンツ作成、配信、結果確認といった処理を自動化することで、少人数の攻撃者でも多数の標的に対して同時に攻撃を展開しやすくなり、攻撃の『規模』が大きくなっていくことが予想されます。
 

この章でわかること

『ポストMythos時代』におけるAI悪用型サイバー攻撃では、攻撃手法そのものよりも、脆弱性調査や攻撃準備・検証の「速度」と、自動化・並列化による攻撃の「規模」が大きく変化します。その結果、防御側が脆弱性の影響確認や対策に使える時間は短くなり、より多くの攻撃へ迅速に対応することが求められるようになります。

 

2. AIのサイバー攻撃能力向上 2つの事例

 前章では、AIの活用によってサイバー攻撃の『速度』と『規模』が変化する可能性を説明しました。本章では、その変化を具体的に示す事例として、AI支援によって短時間で発見された脆弱性が公開後まもなく実攻撃で悪用されたApache ActiveMQの事例と、AIを取り入れた攻撃基盤によって多数の利用者を狙ったOutsider Enterpriseの事例を取り上げます。
 

2.1. Apache ActiveMQ:AI支援による発見と公開直後の悪用観測

 AIによる『速度』の変化を示す事例として挙げられるのが、2026年4月に公表されたオープンソースのメッセージブローカーであるApache ActiveMQ Classicに対する任意コード実行の脆弱性「CVE-2026-34197」です。この脆弱性を発見したHorizon3.ai社の研究者は、ソースコードの調査にClaudeを利用しました。(どのAIモデルを使用したかは公表されていません。)研究者によると、脆弱性の発見作業は「80%がClaude、20%が人による仕上げ」であり、手作業では約1週間必要と想定される調査を、Claudeは約10分で進めたとされています。当該脆弱性は複数の正常な機能を組み合わせることで成立しており、AIがそれぞれの処理の関係を横断的に分析したことで発見につながったとされています。本脆弱性の発見から公開、そして悪用の確認までの経緯を図2に示します。
 

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図2 CVE-2026-34197の発見から悪用確認までの時系列


 Horizon3.ai社は2026年3月22日にApacheへ報告し、Apacheからの修正版は3月30日に公開されました。その後Apacheは4月6日にアドバイザリーを公開し、CVEと脆弱性の詳細は4月7日に公開されました。CISAがKEVへ追加したのは、CVEの一般公開からわずか9日後でした。KEVへの追加は、単なる攻撃コードの公開やスキャン活動ではなく、実環境における悪用の証拠が確認されたことを意味します。さらにTeamT5社が後日に実施した調査で、APTグループSLIME88による当該脆弱性を悪用した攻撃がCVE公開直後の4月7日から発生していたと報告しています。
 この事例が示しているのは、AIによって脆弱性を「発見」する『速度』が速くなることだけではありません。攻撃者もHorizon3.ai社の研究者と同様にAIを悪用して攻撃手法を検証できるため、脆弱性情報が公開されてから「実際の攻撃」までの『速度』が速くなり、防御側がパッチ適用や影響調査に使える時間がより短くなっていく可能性があります。
 

2.2. Outsider Enterprise:AIを取り入れた攻撃基盤による大規模フィッシング

 AIによる『規模』の変化を示す事例として挙げられるのが、Google社が2026年6月に公表した「Outsider Enterprise」による大規模フィッシング攻撃です。Google社の公表によるとOutsider Enterpriseは、中国を拠点としてTelegram上で活動するサイバー犯罪ネットワークとされています。当該組織は、Google社をはじめとする信頼性の高い企業を装った偽SMSや偽サイトをAIによって作成し、それらをフィッシングキットとして犯罪者へ提供していたとされています。犯罪者はこのキットを使うことで、AIによって生成されたテンプレートを使用し、配送通知、金融機関からの警告、アカウント異常の通知などを装った偽のSMS文面や偽サイトを作成することができます。このキットを使用して作成した偽SMSや偽サイトのURLを多数のユーザーへ送信することで認証情報やクレジットカード情報を窃取していました。Google社は、このネットワークを「AI-powered cybercrime network」と位置付けています。
 Outsider Enterpriseのフィッシング攻撃基盤(PhaaS)による攻撃手法の概要を図3に示します。
 

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図3 Outsider Enterpriseのフィッシング攻撃基盤(PhaaS)による攻撃手法の概要
 

 また、Google社が確認した当該攻撃基盤による攻撃の規模を表1に示します。
 

表1 Outsider Enterpriseの攻撃基盤による攻撃の規模

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 表1の通り、Outsider Enterpriseの攻撃基盤によるフィッシングの被害は数十万人規模に及び、金銭的被害も数百万ドル規模であると推定されています。また、AIが偽SMS文面や偽サイト等のコンテンツを生成することで、表1のように大量のサイト、URL、スパムSMSを作成することができたと推測されます。
 この事例が示すサイバー攻撃の『規模』の拡大は、単に大量の偽SMSや偽サイトのURLが配信されたことだけではありません。AIを活用して偽SMSや偽サイトの作成を自動化・効率化することで、攻撃者は少ない人員でも、多種多様な企業やブランド、地域、ユーザーを対象としたフィッシング用のコンテンツを短時間で準備できるようになります。さらに、その仕組みを組み込んだフィッシングキットが共通の攻撃基盤として複数の犯罪者に提供されることで、大量かつ多様な攻撃を同時に展開できるようになるため、攻撃全体の『規模』がさらに拡大していくことが予想されます。
 AIを悪用して偽SMSや偽サイトを生成するフィッシング攻撃の『規模』が拡大していくと、個別に送信元や不正URLを遮断していくだけでは対応が追いつかなくなってしまう可能性が高くなります。
 

この章でわかること

ActiveMQの事例は脆弱性公開後の対応猶予が短くなる『速度』の変化を、Outsider Enterpriseは攻撃基盤が拡大する『規模』の変化を示しています。防御側には、定例的なパッチ対応や個別の送信元遮断だけでなく、公開直後の優先対応の判断と攻撃全体を捉える運用が必要です。

 

3. 大量アラートの中から真の脅威に『気づくSOC』

 前章までで述べたとおり、『ポストMythos時代』では、攻撃手法がすべて新しくなるのではなく、AIによって脆弱性の調査や攻撃準備・検証の『速度』が速くなり、自動化・並列化によって攻撃の『規模』が拡大します。その結果、防御側が確認すべき脆弱性情報、ログ、アラート、IOCが増加する一方、攻撃の進行を判断し、対応へつなげるために使える時間は、これまで以上に短くなると考えられます。
 このような状況で、製品ごとのアラートを到着順に確認するだけのSOCでは、公開直後から悪用される脆弱性や、URL・ドメインなどを次々に変化させる大規模な攻撃を見落とす可能性があります。そのため、脆弱性情報、資産台帳、外部公開状況、脅威インテリジェンス、端末・ネットワーク・クラウド・セキュリティ製品のログなどを関連付け、「自組織に影響するか」「攻撃が進行しているか」「どの資産や業務に影響するか」を一連の流れとして判断する『気づくSOC』が必要になります。
 大量の情報から真に対応すべき脅威に『気づくSOC』を実現するには、主に①脆弱性・資産・脅威情報に基づくアラートの優先順位付け、②複数のログ・アラート・IOCを用いた相関分析、③AIによる分析支援とSOCアナリストによる検証・最終判断の3つが重要です。以下項目では、『気づくSOC』に必要な要素としてこれら主要な3つの要素について説明します。また、図4に主要な3つの要素の概要を示します。
 

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図4 『気づくSOC』に求められる主要な3要素
 

3.1. 脆弱性・資産・脅威情報に基づくアラートの優先順位付け

 AIによって脆弱性の調査や悪用可能性の検証が効率化されることで、公開された脆弱性が短期間で攻撃に利用される可能性が高まっています。第2章で取り上げたCVE-2026-34197でも、CVE公開直後から悪用が観測され、9日後にはCISAのKEVカタログへ追加されました。そのため『気づくSOC』には、アラートを到着順に確認するのではなく、脆弱性の深刻度、対象製品の利用状況、外部公開の有無、資産の重要度、実際の悪用状況を関連付け、対応の優先順位を迅速に判断する能力が求められます。
 その前提として、脆弱性管理ツールや資産台帳を用いて、製品のバージョン、ネットワーク構成、外部からの到達性、業務上の重要度を把握しておく必要があります。脆弱性管理の考え方としてはNIST SP 800-40 Rev.4にてパッチ管理のプロセスが示されています。これらの情報に加え、CISAのKEVカタログやその他の脅威インテリジェンスを活用することで、単に深刻度が高い脆弱性ではなく、自組織で利用され、実際に悪用される可能性が高い脆弱性に関するアラートを優先して対応することができます。
 

3.2. 複数のログ・アラート・IOCを用いた相関分析

 AIによって攻撃の自動化・並列化が進むと、URL、ドメイン、送信元、文面などを次々に変更しながら大規模に攻撃を展開できるようになります。第2章のOutsider Enterpriseも、大量の偽サイトや偽サイトのURLが展開された事例です。このような攻撃に対して、単一のIOCとの一致だけを判断基準にすると、未登録のURLや一部の要素を変更した攻撃を見逃す可能性があります。
 そのため『気づくSOC』には、端末・ネットワーク・クラウドのログ、セキュリティ製品のアラート等の複数のログ・アラートを横断的に関連付ける能力が求められます。具体的には、これらの情報をSIEMなどへ集約し、利用者、端末、時刻、通信先などを手掛かりに分析することで、個別には関連性が低く見える事象を、同一の攻撃キャンペーンや侵害の進行を示す兆候として把握することができます。
 

3.3. AIによる分析支援とSOCアナリストによる検証・最終判断

 『ポストMythos時代』では、SOCが確認すべきログやアラート、脅威情報が増加する一方、調査や判断に使える時間は短くなると考えられます。そのため防御側でもAIを活用し、類似アラートの整理、ログ検索クエリの作成、時系列の要約、関連する脅威・脆弱性情報の検索、報告文の作成などを効率化することで、アナリストが重要な分析と判断に集中する時間を確保する必要があります。
 ただし、AIは情報を誤って関連付けたり、組織固有のシステム構成や業務への影響を見落としたりする可能性があります。そのため、AIの出力をそのまま対応判断に用いるのではなく、SOCアナリストが元のログや根拠を検証し、自組織への影響や侵害の進行状況を踏まえて最終判断を行うことが重要です。したがって、『気づくSOC』には、AIによる迅速な分析支援と、専門知識を持つアナリストによる検証・判断を組み合わせる運用が求められます。
 

この章でわかること

『気づくSOC』には、脆弱性・資産・脅威情報を基にした優先順位付けと、複数ログ・アラート・IOCの相関分析が必要です。AIで情報整理を効率化しつつ、SOCアナリストが元ログと組織への影響を検証し、対応すべき脅威を最終判断することが重要です。

 

4. 検知だけでは守れない 『動くCSIRT』との連携

 SOCがインシデントの兆候を検知しても、対応基準が事前に整備されておらず、関係部門の承認を翌営業日まで待たなければならない場合、CSIRTは端末隔離や通信遮断などの初動対応を実施できません。その結果、被害の拡大を防げず、重大なインシデントへ発展する可能性があります。特に、第1章で示したように脆弱性の解析・検証が短時間化し、第2章のActiveMQ事例のように公開直後から悪用が観測される状況では、SOCによる検知からCSIRTによる封じ込めを実行するまでの時間が、そのまま攻撃者に活動を許す時間となってしまいます。また、第2章のOutsider Enterprise事例のように大規模な攻撃が行われた場合にCSIRTで実施する対応の手順が整備されていないと迅速な初動対応が実施できず、被害が拡大してしまう恐れがあります。
 そのため、サイバー攻撃の『速度』と『規模』が変化する『ポストMythos時代』には、SOCの検知結果を受けて、隔離・遮断・アカウント停止・パッチ適用・フォレンジック・復旧などの対応へ直ちに移行できる『動くCSIRT』が必要です。その実現には、主に①SOC検知からCSIRT対応までを適切に実施するための事前準備をすることに加え、②同時多発するインシデントや夜間・休日にも初動を開始できる即応体制を整備し、③訓練と継続的な改善によって実効性を維持することが求められます。以下項目では、『動くCSIRT』に必要な要素としてこれら主要な3つの要素について説明します。また、図5に主要な3つの要素の概要を示します。
 

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図5 『動くCSIRT』に求められる主要な3要素
 

4.1. SOC検知からCSIRT対応までを適切に実施するための事前準備

 NIST Cybersecurity Framework(CSF)2.0では、サイバーセキュリティリスク管理を「統治」「識別」「防御」「検知」「対応」「復旧」の6つの機能として整理しています。インシデント対応は「対応」機能だけで完結するものではなく、平時から「統治」によって方針や役割・権限を定め、「識別」によって重要な資産や業務を把握し、「防御」によって被害を抑える対策を講じておく必要があります。その上で、インシデント発生時には「検知」「対応」「復旧」を連携させ、兆候の把握から封じ込め、業務の復旧までを一連の活動として進めることが重要です。NIST SP 800-61 Rev.3でも、インシデント対応をCSF 2.0に基づく組織全体のリスク管理へ組み込むことで、対応への備えを強化し、「検知」「対応」「復旧」の有効性を高める考え方が示されています。
 この考え方に基づき『動くCSIRT』を実現するには、SOCから通知を受けた後に対応方法を検討するのではなく、重大度やエスカレーション基準などの判断基準、および端末隔離・通信遮断・アカウント停止などの対応を実施する役割・権限を事前に明確にしておく必要があります。さらに、想定していた担当者が対応できない場合の代替権限や緊急連絡先を定め、ランサムウェア、アカウント侵害、フィッシング、脆弱性悪用などの事象別に、調査、封じ込め、報告、証拠保全、復旧の手順をプレイブックとして整備しておくことで、SOCの検知結果を迅速なCSIRT対応へつなげることが可能です。
 

4.2. 同時多発、夜間・休日のインシデントに対する即応体制の整備

 AIによる攻撃の自動化・並列化によって攻撃の『規模』が拡大すると、複数の端末、アカウント、システムで同時にインシデントが発生する可能性があります。また、攻撃は営業時間内に限らないため、『動くCSIRT』には、同時多発的に発生するインシデントや、夜間・休日に発生するインシデントであっても必要な初動対応を開始できる体制が求められます。
 同時多発、夜間・休日のインシデントにも対応できるように、対象資産の重要度や侵害の進行状況に基づく対応順位やCSIRT、追加要員、外部専門家の招集条件を事前に定めておく必要があります。あわせて、夜間・休日の当番者、応答期限、代替連絡先、エスカレーション経路を整備し、隔離・停止・遮断などを迅速に実行できる体制を確保することも必要となります。さらに、限られた要員で迅速に対応するために検知の確度や資産の重要度に応じて、自動的に実行する対応と、人による確認・承認を経て実行する対応の範囲をあらかじめ明確にしておくことも重要です。
 

4.3. インシデント対応訓練と継続的改善

 対応手順や連絡体制を文書化していても、実際のインシデント発生時に計画どおり行動できるとは限りません。判断基準の理解不足、承認者との連絡不通、操作権限の不足などは、訓練を通じて初めて明らかになる場合があります。そのため、ランサムウェア、アカウント侵害、脆弱性悪用などを想定し、SOCからの通知後に調査、判断、封じ込め、連絡、復旧までを実行できるか確認する訓練を実施する必要があります。NIST SP 800-61 Rev.3およびNIST SP 800-84でも、訓練や演習を通じた対応計画の検証が重視されています。
 訓練では、対応方針や役割を確認する机上訓練に加え、可能な範囲でログ調査、端末隔離、アカウント停止、証拠保全などの実操作も確認する必要があります。訓練後は、判断や連絡の遅延、情報・権限・手順の不足を振り返り、プレイブックや体制へ反映することで、『動くCSIRT』の実効性を継続的に高めていくことが重要です。
 

この章でわかること

『動くCSIRT』には、検知後すぐに封じ込め・復旧へ移れるように判断基準、役割・権限、連絡体制、事象別プレイブックを事前に準備しておくことが必要です。インシデントの夜間・休日や同時多発発生時の即応体制を整備するとともに、訓練で課題を確認して手順と体制を継続的に改善することも重要です。

 

5. ポストMythos時代に必要なSOC/CSIRTサービス

 本記事では『ポストMythos時代』におけるAIを悪用したサイバー攻撃がどのように変化するのかを整理するとともに、SOC/CSIRTサービスを提供している組織の立場から、これからのセキュリティ運用に求められるSOC/CSIRTの役割とそれらを活用したサイバー攻撃対策について解説しました。
 上述の通り、『ポストMythos時代』に必要なSOC/CSIRTの機能は、セキュリティ製品のアラートを監視・通知するだけではありません。AIによって攻撃の『速度』と『規模』が変化する中では、大量の情報から組織に影響する脅威を見極める『気づくSOC』と、その検知結果を受けて封じ込めや復旧へ移行する『動くCSIRT』を、一連の運用として連携させる必要があります。
 ただし、このような『気づくSOC』、『動くCSIRT』を自組織内のみで実現することが難しい場合も多いと思われます。そのような場合には外部のSOC/CSIRTサービスを活用することも有効な対策として挙げられます。特に『ポストMythos時代』においては、SOCとCSIRTを個別に運用していくのではなく、「検知」「対応」「復旧」を切れ目なく連携させるSOC/CSIRTサービスが必要であると考えます。
 SSKでは、24時間365日のセキュリティ運用監視をはじめ、脆弱性診断、インシデント対応、デジタル・フォレンジックなどの対応を一気通貫で提供する総合セキュリティサービスを展開しています。これらの現在展開しているサービスについて主要なサービスの概要を次章で説明いたします。

 

6. 参考文献・参考情報(参照日:2026/07/31)

[1]「Assessing Claude Mythos Preview's cybersecurity capabilities」
https://www.anthropic.com/research/mythos-preview

[2]「GTIG AI Threat Tracker: Adversaries Leverage AI for Vulnerability Exploitation, Augmented Operations, and Initial Access」
https://cloud.google.com/blog/topics/threat-intelligence/ai-vulnerability-exploitation-initial-access/?hl=en

[3]「The post-Mythos era: Why AI-powered defense is no longer optional」
https://www.f5.com/company/blog/the-post-mythos-era-why-ai-powered-defense-is-no-longer-optional

[4]「CVE Program Report for Quarter 1 Calendar Year (Q1 CY) 2026」
https://www.cve.org/Media/News/item/blog/2026/05/12/CVE-Program-Report-for-Q1-2026

[5]「Vulnerability Trend Report for Q2 2026」
https://asec.ahnlab.com/en/94360/

[6]「Project Glasswing Securing critical software for the AI era」
https://www.anthropic.com/glasswing

[7]「Palo Alto Networks Security Advisories」
https://security.paloaltonetworks.com/

[8]「Measuring LLMs' impact on N-day exploits」
https://www.anthropic.com/research/n-days

[9]「AI as tradecraft: How threat actors operationalize AI」
https://www.microsoft.com/en-us/security/blog/2026/03/06/ai-as-tradecraft-how-threat-actors-operationalize-ai/

[10]「JVNDB-2026-011829 Apache Software FoundationのApache ActiveMQ等の複数製品における複数の脆弱性」
https://jvndb.jvn.jp/ja/contents/2026/JVNDB-2026-011829.html

[11]「10 Minutes with Claude: Remote Code Execution in Apache ActiveMQ (CVE-2026-34197)」
https://horizon3.ai/attack-research/disclosures/cve-2026-34197-activemq-rce-jolokia/

[12]「CISA Adds One Known Exploited Vulnerability to Catalog(Release Date:April 16, 2026)」
https://www.cisa.gov/news-events/alerts/2026/04/16/cisa-adds-one-known-exploited-vulnerability-catalog

[13]「Alert: Exploitation of CVE-2026-34197 in Apache ActiveMQ」
https://teamt5.org/en/posts/alert-exploitation-of-cve-2026-34197-in-apache-active-mq/

[14]「How we're combatting AI scams with security, legislation and more」
https://blog.google/innovation-and-ai/technology/safety-security/combatting-ai-scams/

[15]「NIST SP 800-40 Rev. 4 Guide to Enterprise Patch Management Planning: Preventive Maintenance for Technology」
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-40r4.pdf

[16]「The NIST Cybersecurity Framework (CSF) 2.0」
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/CSWP/NIST.CSWP.29.pdf

[17]「NIST SP 800-61r3」
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/SpecialPublications/NIST.SP.800-61r3.pdf

[18]「NIST SP 800-84」
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/Legacy/SP/nistspecialpublication800-84.pdf

 

7. SSKの総合セキュリティサービスについて

 SSKでは総合セキュリティサービスとして、セキュリティ運用監視サービス、脆弱性診断サービス、デジタル・フォレンジックサービスなどのセキュリティサービスを展開しております。
 セキュリティ運用監視サービスでは、24時間365日、リアルタイムでセキュリティログの有人監視を行っております。サイバー攻撃対策としてセキュリティ機器を導入しても、継続的な運用監視と分析・判断が伴わなければ十分な効果は得られません。セキュリティ運用監視サービスでは、不審な通信やアラートを継続的に分析し、迅速な通知によって、インシデント発生時に適切に対処できるよう支援いたします。
 脆弱性診断サービスでは、お客様のシステムを診断し、検出された脆弱性への対策をご提案させていただいております。テレワークの常態化やIoT等のデバイスの多様化が進む昨今、特定の攻撃経路だけを想定した「境界防御」に加えて、脆弱性を把握・管理・対処する『本質防御』も必須となっています。脆弱性診断サービスのご活用により、お客様のシステムにおける脆弱性の存否が明らかになります。
 デジタル・フォレンジックサービスでは、万が一のインシデント発生時に、コンピュータやセキュリティ機器などに残された情報を分析し、侵入経路や情報窃取の痕跡等を特定するフォレンジックサービスを提供しております。また、平時の備えとして証拠保全の訓練などを実施する事前アドバイザリーサービスも提供しております。
 これらの当社総合セキュリティサービスにより、インシデントの予防と、発生時の迅速な対処を両立し、対策コストや被害の抑制に貢献します。

【参考URL】
セキュリティ運用監視サービス:
https://www.ssk-kan.co.jp/e-gate#e-gate--02
脆弱性診断サービス:
https://www.ssk-kan.co.jp/vulnerability-assessment
デジタル・フォレンジックサービス:
https://www.ssk-kan.co.jp/digital-forensics

 

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